生活世界の構造(シュッツ)

「生活世界の構造」(ちくま学芸文庫)  

正面切って哲学者が問うことのほとんどない「日常生活とは何か」を六百ページにわたって語っている。

という観点で読めば、この本は、古典的でなかなかよい。

 

現象学的社会学と区分される。 書かれてから50年以上たっていて、つまり、著者は、ネットやメールでの情報のやり取りが日常生活になっている現代のことを知らずに書いている。それでも、たいへん良いと思える。  

 

なぜ良いと感じるか。  

 

大きな話をできるはずの「モダン」な哲学が疑われ、「ポストモダン」な哲学が試みられたが、 その試みは、一歩あるくごとに小さな落とし穴に足をとられる泥沼で、生きているうちにどこへも到達できそうにない徒労感が心身に積った。その体験が、 この本を、良いと感じさせるのだ。  

 

本当に、この本が良いのかどうかは読む者しだいだ。  

賢者の脳の活動は、賢者の日常生活の一部。

詩人の言葉を編む脳の活動は、詩人の日常生活の一部。

画家の画布に描く筆運びを制御する脳神経は、彼の日常生活の一部。

曲芸師の曲芸でさえ、彼の日常生活の一部。

 

すべての根源に日常生活が横たわるならば、「日常生活」を採取して、解剖台に置けばよい。 それを覗き込み、何がうごめいているかを発見して記録し、認識を新たにすればいい。  

 

この本は、そういう根源的アプローチを助けるタイプの本だ。

 

現象学的社会学と分類されるそうだ。個別現象にこだわりすぎては、ただナラティブなだけで、哲学にはなれない。

テレビから流れ来る情報と日常生活者。 SNSというような新しい社交生活をする日常生活者。 現代的なツールの中で生活する者の意識特性について、誰が、哲学の後継者が分析してもらいたいものだ。              

所長 の紹介

選択肢研究所の所長です。
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